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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

と茂次が云った、「そうすれば思いだすかもしれないし、ことによると生き残っている者があるかもしれない」

おりつは強く首を振り、めくばせをして彼を黙らせた。茂次はまごついて口をつぐみ、それから、今夜はもう寝よう、と云って立ちあがった。

茂次は自分の部屋で、くろを相手に将棋をさし始めた。正吉と松三は夕飯のあとで遊びにでかけ、くろは置いてゆかれたのですっかりむくれていた。将棋もやる気がないとみえ、ばかげた手ばかりさすので、茂次は駒を投げだして「寝ちまえ」とどなりつけた。くろが出てゆくとまもなく、おりつが茶と菓子を持って来て、市とあっちゃんのことを話した。二人は自分たちのうちのことを恐れている、理由はなにも云わないが、元のうちのことを訊くだけでも怯えたような顔になる、ということであった。茂次は眉をしかめて「うん」と低く唸った。

「ほかの子たちも元の町内のことは云いたがりません」とおりつが云った、「ずいぶんひどいめにあっているようで、思いだすのもいやなようですから、どうかそういう話には触れないでやって下さい」

茂次は頷いた。おりつは茶を淹れ、菓子鉢の蓋を取ってすすめながら、「それから」