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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

ことに三十余日のあいだ、馴れない手で面倒をみてきて、ようやく子供たちがなついたところである。どうかするとおゆうに子供たちを横取りされる、という気持も起こるだろう。いずれにしてもうまくはゆくまいと、思ったのであるが、日が経っても、そんなようすはみえなかった。茂次は月に二度の休み以外、ひるまはうちにいないので、おゆうと会う機会は殆んどない。けれども、毎晩おりつが話すから、その日あったことはおよそ知ることができた。おりつの話はおゆうのことが中心であり、それがたいていおゆうを褒め、おゆうについて感心したことばかりであった。

「あたしおゆうさんに字を教えてもらおうと思うの」と或る夜おりつが云った、「明日っから子供たちといっしょに始めるつもりよ」

茂次は信じかねるようにおりつを見た。

「人間は学問が大切だって、あたしつくづくそう思ったのよ」とおりつは茂次を見返して云った、「若棟梁はちいさこべって知ってるわね」

「なんのこった」

「ちいさこべよ、知ってるんでしょ」

茂次は黙って首を振った。

「うそ」とおりつが云った、「ほら、ずっとむかしのなんとかっていう天皇のときに、よその子をたくさん集めてきた人がいるじゃないの」