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ちいさこべ
ちいさこべ
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页
――帰らなくちゃあならない。
母のためにもすぐ帰ることにしよう、茂次がそう思っていると、大六が戻って来た。
「若棟梁、あっしは江戸へいって来ます」と大六が云った、「いや、あっしのほうがいい、若棟梁は残っておくんなさい」
「どういうことなんだ」
「詳しい事情はわからねえが、おまえさんのことだからはっきり云っちまう」と大六はまともに茂次をみつめながら云った、「――棟梁もおかみさんも、いけなかったらしい」
茂次はぼんやりと大六を見、それから、舌がきかなくなりでもしたような口ぶりで、「おふくろも」と訊き返した。
「なんと云いようもねえが」と大六は眼を伏せた、「そういうわけだから、ここはあっしがいくほうがいいと思う。若棟梁はそれからにしたほうがいいと思うんだが」
茂次は黙っていた。大六は暫く待っていたが、茂次は身動きもしなかった。
「若棟梁」と大六が呼びかけた。
茂次は黙っていた。
「若棟梁」と大六は云った、「おまえさんしっかりしてくれなくちゃあ困りますぜ」
すると茂次は、とつぜん顔をあげて、どなった、「うるせえ、てめえこそしっかりしろ、おやじもおふくろも死んだとすれば、あと始末に手ぬかりがあると大留の名にかかわるぞ、そいつを忘れずにしっかりやって来い」