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ちいさこべ

ちいさこべ

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页

青空文庫

「この仕事があがったら休みをやるからな」と茂次は二人に云った、「せっかくの正月だががまんしてくれ」

くろは父親が病気だそうで、暮の二十八日から、本所にある自分の家へ帰っていた。親の病気というのは口実で、もう「大留」へ戻るつもりはないらしい。いつまでもいちにんまえの扱いをしてもらえないので、自分で手間取りでも始める気になったのだろう。茂次は「ばかな野郎だ」と云っただけであった。

二十日に「魚万」の普請が仕上った。茂次は万兵衛から祝いの席へ招かれたが、大六を代りにやり、正吉と松三には七日間の休みをやった。そしておりつに、おまえも芝居にでもいって来たらどうだ、とすすめたが、おりつは相手にしないで、棟梁こそ息抜きにでかけるがいいと云った。

「仕事に追われづめ、うちにいづめでは躯に障ってよ、気ばらしにどこかへいってらっしゃいな」

「年寄りみてえに云やあがる」と茂次は云った、「おれはうちで寝正月だ」

それこそ年寄りみたようだ、とおりつは云ったが、顔にはそれをよろこんでいる気持があらわれていた。――茂次は云ったとおり、まる二日うちにこもっていた。部屋に夜具を敷いたままで、食休みをするとすぐ横になり、合巻本を読んだり、眠ったりした。