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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
手筋はかなりよく、上達も早かったが、力が強いうえに乱暴者で、人と喧嘩が絶えなかった。隼人が江戸へゆくちょっとまえに、道場で二人を相手に喧嘩をし、一人の腕を折ったため、横淵教頭から破門された。
「もう破門も許されるころじゃないか」と歩きながら隼人が訊いた、「あれからまたなにかやったのか」
「そんなところです」岡村はそう云って、隼人に振返った、「――朝田さんがここへ来たのは、到着された晩に話したことが本当の目的なんですか」
「岡村はいつ来たんだ」
「話をそらしますね」
「番はいつあくんだ」
「番は一年ですから」と岡村が答えた、「この八月には城下へ帰ります、しかし、望めば延期することもできますよ」
暫く歩いてから、「断わっておくが」と隼人が低い声で云った、「これからはつまらない疑いや臆測で、人の動作を見張るようなことはしないでくれ、――わかるだろう」
「こっちへおりるんです」と岡村が云った。
岩を削った急な踏段をおりると、すぐ向うに流人村の部落が見えた。
断崖と断崖とに三方を囲まれ、東のほうへ段さがりに低くなる端が、そのまままた断崖に続いていた。ひとくちに云うと、屏風で三方を囲まれた雛段のような地形で、石を組みあげた台地が斜面に段をなしており、若木の檜や杉の疎林のあいだに、住民たちの家がちらばって見えた。