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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
なありさまです」
消息を絶った者の中には、どこかで仕事にとりつき、立派に一家を成した者があるかもしれない。そういう者があったにしても、流人村の出身ということは隠しとおそうとするであろうし、多くは失敗して貧窮に喘いでいるか、行倒れて、名も知られずに葬られるか、どちらか一つというふうに考えられていた。
「それは、ここへ帰って来る年寄たちが、証人のようなものです」と正内老人が云った、「帰って来たかれらは、一年か二年のうちに死んでしまいますが、それだけで、いかに世間の生活が辛くきびしいか、ということを住民たちは感じるようです」
私は貴方の考えを間違っているというのではない、と正内老人は終りに云った。貴方がもし辛抱づよく、本心からそれをやりとげるつもりなら、及ばずながら私も助力をしよう。けれどもここには、その他にも困難な問題が多いので、じっくり腰を据えてやる気構えが必要である。まず、住民たちと親しくなること、それが第一であろう、と老人は云った。
高熱がさがった四日めに、隼人は忘れていたことを思いだし、権八を放してやれと命じた。そのとき側にいたあやが、「権八は逃げました」