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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

隼人は丹念に記録を読み返した。

彼は流人村の歴史をよくのみこんでおきたかった。かれらに近づくには、かれらの伝統や慣習を知らなければならない。こちらの思案を押しつけるより、かれらを内部から動かすことが、この場合には特に大事であると思った。――まえにも記したように、記録からは得るものは少なかった。密通者を罰したこと。男は十七八になると「山ぬけ」をする者が多いこと。女はごく稀な例を除いて、大部分が部落から動かないこと。そのため男女の比率がしだいに接近し、若い年齢では、男より女の数のほうがはるかに多いこと、などがわかった程度であった。――その中で一つ、約六十年まえの出来事だが、隼人の注意をひく記録があった。正確には五十八年以前の冬のことで、そのとき百二十余人いた住民の、殆んど半数が死んだという、奇怪な記事であった。

――猛風雪のため、二十日あまり流人村の見廻りができなかった。

こういう書きだしで、見廻りにいってみると、五十四人が死んでおり、それがみな焦げた木の枝で躰腔を突き刺されているのを発見した。口、肛門、鼻腔。女は老若の別なく陰部に、それぞれの太さの焦げた枝が、深く突き刺してあった。