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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

また生き残っていた住民の半数以上が狂乱状態で、親が子を、良人が妻を、同じ方法で責めてい、止められる限りは止めたが、それらの中からもさらに四人の死者が出た。――あまりのむごたらしさ、想像を絶するこの残虐さはどうしたことか、気の慥かな者を呼び集めて訊いてみると、「弥七の娘に狐が憑いた」ということであった。十日ほどまえに、風雪の中を一人の行者が来て、宿を求めた。骨ばかりのように痩せた、白髪の眼の大きな老人であったが、弥七の娘が病気で寝ていると聞き、治してやると云って祈祷した。しかしすぐに、この娘には悪い狐が憑いているから、それを追い出さなければならないと云った。そこで松葉いぶしにかけ、近所の者を集めていっしょに呪文を唱えだした。呪文は簡単なもので、みんなすぐに覚えたし、行者のあとについて熱心に唱和した。そのうちに娘が暴れだした、病気のところを松葉いぶしにかけられ、聾するような多勢の呪文を聞かされて逆上したらしい。異様な叫び声をあげながら、家の中を狂いまわった。行者は娘を捕え、手足を押えさせ、「この狐は尋常のことでは出てゆかない」と云って、炉から燃えている榾を取り、娘の陰部へ突き入れた。