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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
明くる日、隼人は木戸の者をぜんぶ集めて、部落の女とかかわりをもつことを禁じた。
「私は藩校の道場で助教をしていた」彼はすぐに話を変えた、「――骨が固くなってはいけないから、躯がよくなったら組み太刀でもやってみたい、よかったらおまえたちもやらないか、一と汗かくとさっぱりするぞ」
「それは有難いですが」小野大九郎という番士が云った、「ここには道具がなにもないんです」
「木剣を三本持って来てある」と彼は云った、「組み太刀だけなら道具は要らないが、今月から月便があるから、道具を取りよせて稽古をしてもいいな」
「いいですね」と西沢半四郎が乗り気をみせて云った、「朝田さんの教授なら願ってもないことです、ぜひそうして頂きましょう」
隼人は西沢を見た。石ころか木片でも見るような眼つきで、それから足軽たちのほうへ振向き、足軽も小者たちも望みがあればいっしょにやれ、と云った。
四月から九月まで、「月便」といって、月にいちど城下と連絡をとる。このあいだに食糧や必要な物資を運びあげるのだが、道が嶮しく、危険や困難が多いにもかかわらず、番士たちは城下町へゆけるというだけで、いつもこの役を奪いあうということであった。