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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

四月十八日の朝、隼人はまた流人村へいった。このときも岡村七郎兵衛がついて来、それには及ばないと云ってもきかなかった。

「貴方はかれらに馴れたと思っているんでしょう」と岡村は云った、「慥かに、正内老人のところで会った連中は貴方に好意をもったようです、しかしあれはあのときだけのことで、なが続きはしやあしません、部落の人間は考えることもすることも衝動的で、一つの感情を持続するとか、或る仕事にうちこむというようなことができないんです、木戸の者に対しては根の深い、それこそ本能のような怖れと憎悪をもっていますが、そのためにみんなが一致してなにかするということもない、一人一人がばらばらで、横のつながりというものがまるでないんです」

「ずいぶん詳しいじゃないか」

「なに、眼と耳があれは誰にだってわかりますよ」そう云って、岡村は調子を変えた、「このあいだ云ったことは本当にやるつもりですか」

「組み太刀か」

「いや、部落の女についてのことです」

隼人は暫く歩いてから答えた、「やるつもりのないことを禁ずると思うか」

「よくお考えになったでしょうね」

「ここの生活は辛い」と隼人が云った、「それはよくわかっているが、おれと西沢のほかはみな一年で番があく、それでなくとも、木戸詰を命ぜられるのは、大なり小なり失策のあった者で、いわば一種の処罰な