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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

隼人は娘の躯の柔軟で固いまるみを、じかに背中に感じた。その柔らかで固いまるみの当るところが、火を当てられたように熱くなった。彼はその感覚をうち消そうとして、頭をつよく振りながら、押されるままに斜面をおりていった。あやは含み笑いを続けてい、雑木林の中にはいると立停った。そこは空気が陽にあたためられた湯のように温かく、萠え出た草の芽と若葉の香が、むっとするほど刺戟的に匂っていた。あやは隼人を放し、彼の前へまわって出ると、ここよ、と云いながらこっち向きに跼み、草の芽の中を掻きさぐった。――少ししゃくれぎみの子供っぽいまる顔が赤く上気してい、富士型の白い額に五六筋、短い髪の毛が汗で貼り付いている。隼人は「なにがあるんだ」と訊いた。あやはくっと顔をあげた。唇と眼が笑いかけた。ほんの少し薄桃色の歯茎の覗く小さな並びのよい歯と、それを縁取る赤い湿った唇と、そしてうわめづかいに見あげた眸子の、きらきらするような光りとは、隼人を強くとらえ、手繰りよせるように思えた。

「これ、――」とあやは云った。

云いながらあやは、そこへ腰をおろし、両膝を立てると、それを左右へ開いた。