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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
継ぎの当った、丈の短い黒っぽい袷の裾が割れ、眼に痛いほど白くふくよかな内腿と下腹部とが、むきだしになった。隼人はとっさに眼をそらしたので、ふくよかな内腿と下腹部との、張り切った白さだけしか見なかったけれども、あやの動作の思いがけなさと、殆んど作為の感じられない大胆さとに、怒りや、羞恥よりも、むしろ激しい敗北感におそわれた。
「先生、見て、――」とあやが云った、「あたしきれいでしょ」
隼人には云うべき言葉が思いうかばなかった。彼は眼をそむけたまま、檜林のほうへ歩きだした。先生、とあやが呼んだ。隼人は答えずに斜面を登ってゆき、あやが追いかけて来た。あやは隼人の袖を掴んで引止め、彼の前に立ち塞がった。
「あたしが嫌いなの、先生」あやの眼が火がついたようにぎらぎらしていた、「あたし先生が好きなのに、先生はあたしを嫌いなの」
「その話はあとでしょう」
「あたしを抱いてよ」あやは挑みかかるように云った、「ねえ、あたしを抱いて、先生、そうすればいいことを教えてあげるわ」
「娘がいまのようなことをするものじゃあない」云いかけて隼人は口をつぐみ、ゆっくりと首を振った、「この話は村へ帰ってからにしよう」