轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

「嘘じゃない、本当にいいことよ」とあやはなお云った、「あたしのほかには誰も知らないし、先生には大事なことなの、嘘じゃない、本当に大事なことなのよ」

「そんならいま云ってごらん」

「あそこで」あやは嬌めかしい表情で、いま出て来た雑木林のほうへ眼をやった、「あそこであたしを抱いて、可愛がってくれたら云うわ」

隼人はあやを除けて歩きだした。

「先生」とあやは追って来た、「聞きたくないの、聞かなくってもいいの」

隼人は黙って斜面を登り、檜林の中へはいった。正内老人がこごさの話をしたときのことを、彼は苦々しく思いだした。あやだけはまだ、老人のところへ稽古にかよって来る、見た感じも乙女らしくすがすがしい。この娘ならうまく育てられるのではないか、そういう意味で老人の考えをさぐってみた。すると老人は云った。

――諄いようだが、ここがちくしょう谷と呼ばれていることを忘れないで下さい。

隼人はそそり立つ断崖の前に立って、それを登る手段がないことをつきとめたときのように、自分のみじめな無力さをつくづくと感じるのであった。先生、待って、と呼びかけながら、あやはまた追いついて来た。