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ちゃん

ちゃん

山本 周五郎

「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页

青空文庫

「まえにかあちゃんの友達だったって」

「この町内にいたんだ」と重吉が云った、「おやじは左官だったが、お蝶が十五の年に死んじまった、おふくろというのが気の弱い性分で、二年ばかりすると、押掛け婿のようなかたちで、亭主を入れてしまった」

亭主というのは道楽者で、母娘はかなり辛いおもいをしたらしい。ちょうど重吉とお直が世帯を持つころだったが、お蝶はよくお直のところへ来て、泣きながらぐち話をしていた。そのうちに、ふいとかれらはいなくなった。夜逃げ同様にどこかへ越してゆき、まったく音信が絶えてしまった。

――お蝶さんは吉原へでも売られてしまったのではないか。

近所ではそう云っていたし、重吉やお直もそんなことではないかと話し合った。そして五年ばかり経ったある日、重吉はおとわ町のその横町でお蝶に呼びとめられ、彼女が呑み屋を始めたことを知ったのである。

「その義理のおやじのために、ひどいめにあったそうだ。恥ずかしくって口にも云えないって詳しい話はしなかったが、ずいぶんひどいめにあったらしい、おい」と云って重吉は急に躯をひねった、「おい、いいかげんにしろ、背中の皮がむけちまうぜ」