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ちゃん

ちゃん

山本 周五郎

「週刊朝日別冊陽春特別読物号」朝日新聞社、1958(昭和33)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,377 字 · 45 页

青空文庫

「おれたちは三人いっしょに育った、檜物町とおれはどうやら店を持ち、どうやら世間づきあいもできるようになった、いまならおめえに力を貸すこともできる、こんどはおめえの番だ、このへんでふんぎりをつけなくちゃあ、お直さんや子供たちが可哀そうだぜ」

重吉は持っている盃をみつめ、それから手酌で飲んで、ゆっくりと首を振った。

「友達はありがてえ」と彼は低い声で云った、「友達だからそう云ってくれるんだ、うん、考えてみよう」

「わかってくれたか」

「わかった」と重吉はうなずいた、「おめえに云われて、よくわかった」そして彼は急に元気な口ぶりになった、「――じつを云うとね、両替町の店でも、あんまりおれに、仕事をさしてくれなくなったんだ、むろんそいつは、売れゆきの悪いためだろう、待ってたひにゃあ買いに来る客もねえから、おれが自分で古いとくいをまわって、注文を取ってくるっていう始末なんだ」

「自分でだって、――おめえがか」

「恥ずかしかったぜ、いまは馴れたけれども、初めは恥ずかしくって、汗をかいたぜ」重吉は手酌で二杯飲み、空になった盃をじっとみつめた、「いまは馴れた、けれどもな、おめえの云うとおりだ、もう三十五で、女房と四人の子供をかかえてるんだ、このままじゃあ、女房子が可哀そうだからな」