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へちまのき
へちまの木
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页
「反吐が出そうだな」
「世間をよく見てみな、みんなお互いに化かしあっているようなもんだぜ」
木内桜谷はそう云ってへらへらと笑った。房二郎はがくっと肩を落し、溜息をついて、こっちにも酒を呉れと云った。彼はそれまで香煎を啜っていたのだが、酒でも飲まなければどうにもやりきれない気持になったのであった。
「いいのかい」と木内がきいた、「おらあ一文なしだぜ」
「大丈夫、――だろう」房二郎はふところを押えて云った、「あの女房のようすじゃあ、まだ相当に長びくだろうからな、あんな騒ぎは二度と見たくないよ」
「そうできればな」木内はまた皮肉な笑いをもらした、「そうできれば、生きてゆくのに苦労はないさ、しかしもし記事屋になるつもりなら、どんなに卑しい、きたならしい事でも眼をそむけちゃあいけねえ、むしろこっちからぶっつかってゆかなくちゃあな」
「こんなこととは思いもよらなかった」
小女のおつまが酒と摘み物を持って来、なにが思いもよらないんですか、ときいた。
「こっちの話だ」と房二郎が云った、「そうだ、鯛の刺身を頼む」
「悪いしゃれだ」と木内が云った。
「ほんとにあがるんですか」とおつまはにやにやした、「今日は鶉の串焼きのうまいのがあるのよ」