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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

房二郎はちょっとよろめき、おるいの肩につかまった。そして自分の部屋までゆくあいだ、さりげなく、肩につかまった手をすべらせて、おるいの背中を撫でた。

「ちょっと待って、そのままじゃだめよ」

着たなり夜具の中へもぐり込もうとする房二郎を、おるいは抱き止めながら云った。

「寝衣があっためてあるの」とおるいは云った、「着替えてから寝てちょうだい」

「あとでね」彼は夜具の中へもぐり込んだ、「あとできっと着替えるよ、きっとだ」

「あの肩には覚えがある」と房二郎は呟いた、「小さくて柔らかな肩、しなやかで弾力のある背中の手触り、――初めの夜はおぼろげだったが、二度めの晩にはこのまえの女だとすぐにわかった、慥かにあの肩、あの背中だった」

「なにをぼやいてるんだ」と木内桜谷が振り向いて云った、「まだ宿酔が直らないのか」

「宿酔にもいろいろあるんでね」房二郎は写し物を続けながら云った、「世間にはこんなにいろいろな穴ぼこがあるとは知らなかったよ」

「そうして少しずつおとなになるわけさ」

「おれはいっそ、のら犬にでも生れてくればよかったと思うよ」

「のら犬だって餌をあさるには苦労するぜ」

「横っ面へ平手打ちをくうようなもんだ」