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へちまのき
へちまの木
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页
「いやなことを云いなさんな」
「そうでなくって、着物を拵えてくれたり、小遣いを貢いだりする道理があるかい」
「だって相手は七つもとし上だぜ」
「もったいないことを云うなよ」木内は湯呑茶碗の酒を啜った、「あれだけの縹緻よしは千人に一人とはいねえぜ、それに、いろ恋にとしなんか問題じゃあねえさ」
「あら、羨ましいような話じゃないの」と酒を持って来た女が云った、「もっと詳しく聞かせてよ」
「よけいな口出しをするな」と云って房二郎は女の顔を見、狭い部屋の中を見まわした、「ここはいったいどこだ」
「そらっつかいね」女は房二郎の肩を叩いた、「ちゃんと知ってるくせに、はいお酌」
「門前仲町だよ」と木内が云って、女に手を振った、「酌はいいから二人にしてくれ」
「なによう、このしと」女は木内にかじりついた、「いまあちしをくどいたばかりじゃないの」
「うるせえ、おれにゃあちゃんと女房がいるんだ」
「おかみさんを持ってるのはあんた一人じゃないよ、なにさ」女は木内をもっと強く抱き緊めた、「かみさんも持たないような男は、いっしょに寝たって面白みはありゃあしない、ねえ、あっちへゆこうよ」
「おれは帰るぜ」