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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
「おかあさま」とわたくしは云った、「わたくしどう致しましょう」
「召使に見られます」おかあさまはわたくしの肩へ手をまわしながら仰しゃった、「ここではいけません、わたくしの部屋へゆきましょう」
おかあさまはわたくしをかかえるようにして、御自分の部屋へはいり、よく火のおこっている火鉢のそばへいっしょに坐った。
「ここならようございます、さあ、泣きたいだけお泣きなさい」そう云っておかあさまはわたくしの手を取られた、「――ただね、すずさん、これはあなた一人だけのことではないのよ、わたくしにもおぼえがあるし、女なら誰でもいちどは忍ばなければならない、生涯にいちどだけ、結婚する女はみんな、いちどはくぐらなければならない門のようなものなのよ」
わたくしはおかあさまの膝へ俯伏して泣いた。おかあさまはやさしく、わたくしの背を撫でたり、赤児をあやすようにそっと叩いたりしながら、年が若いから吃驚したであろうが、これでもう済んだのである、耐え忍ぶようなおもいも長く続くものではないし、やがてはそんなこともあったかと思うようになるだろう。そういう意味のことを話してくだすった。
――おかあさまは勘ちがいをしていらっしゃる。