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やぶからし

やぶからし

山本 周五郎

「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页

青空文庫

あの方が去ってから約半年、九月になってまもなく、わたくしはおかあさまから離縁のことを相談された。

「お躯に変りはないようね」とおかあさまは初めに仰しゃった。

わたくしは漠然とではあるが、みごもる、ということだなと思い、「はい」と答えながら、顔が赤くなるのを感じた。

「それは不幸ちゅうの幸いでした」とおかあさまは仰しゃった、「あなたはまだ十六でいらっしゃるし、これからどんな良縁にも恵まれることでしょう、もちろんわたくしたちもこころがけますけれど、ここでいちど、おさとへお帰りになってはどうでしょうか」

わたくしは終りまで聞かずに、微笑しながらかぶりを振った。そんな話が出ようとは予想もしなかったが、聞き終るまでもなく、わたくしはきっぱりと云った。

「すずは細貝家の娘です、わたくしにはこの家のほかにさとなどはございません」

「それはそうですとも、けれど」

「いいえ」とわたくしはまたかぶりを振って云った、「おかあさまは初めから、わたくしを本当の娘のようにしか思えない、と仰しゃいました、そうしてわたくしにも、実の母親だと思うようにって、――わたくしも初めておめにかかったときすぐに、これが本当のおとうさまおかあさまだと思いましたし、いまでもその気持に変りはございません」