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やぶからし

やぶからし

山本 周五郎

「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页

青空文庫

末の信五というお子が五歳になるので、血の続きも濃いし、貰って下さればわたくしがお育てするから、と云ったのであるが、するとおかあさまは、それよりあなたに婿の話があるのだ、と仰しゃった。

「いいえ、いやです」わたくしは驚いてかぶりを振った、「わたくし、それだけは、はっきりお断わり致します」

おかあさまは眼をみはり、それから不審そうなお顔つきで、じっとわたくしをごらんになった。わたくしの口ぶりがあまりに激しかったので、なにかわけがある、とお思いになったのであろう。わたくしももうお話してもいいと思い、祝言の夜の仔細を申上げ、二度とあんなことを経験したくない、という気持を正直にうちあけた。

おかあさまにはまったく思いがけないことだったようで、暫くは眼をつむったまま、なにも云うことができない、というふうにみえた。

「そうだったの」とやがておかあさまは深い溜息をついて仰しゃった、「ではあなたはまだ娘のままだったのね、ああよかった」

「娘のままではございませんわ、玄二郎さまと祝言をしたのですし」

「いいえ」おかあさまは遮って、そっと微笑された、「そのことはあとで、よくわかるように話してあげましょう、あなたのいまのお話が本当なら、あなたはまだ娘のままだし、良人を持つということはそんなものではないんですよ、でも」