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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
――これが本当のおとうさまとおかあさまだ。
祝言の席にいるあいだも、それから仲人夫妻に導かれて寝所へはいってからも、その感動の与えてくれるあたたかさと、やすらかにおちついた気分とで、わたくしはうっとりしていたように思う。寝所でもういちど盃ごとがあり、そのとき綿帽子をとって、初めてあの方と向き合ったが、これが良人になる人だと認めたほかは、なんの感情もおこらなかった。たしかだろうか、不安とか、恥ずかしさとか、おそれなどという、心の動揺はなかったろうか。わたくしはなかったとおぼえている。記憶のどこかに残っているのは、新しい兄、という漠然とした感じをもったことだけであった。
次の間へ立って、仲人の斎藤夫人に着替えを手伝ってもらい、白の寝衣に鴇色のしごきをしめ、それから髪を解いた。
「朝のお召物はここに置きます」と斎藤夫人は溜塗のみだれ籠を示した、「お呼びになれば小間使がまいるでしょうけれど、お着替えは自分でなさるほうがいいでしょう」
「はい」とわたくしは答えた。
斎藤夫人はわたくしの寝衣の衿をかいつくろいながら、なにげない口ぶりで、からだを固くしないように、くつろいだ気持になるがよい、というようなことを囁いた。