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カストリしゃじけん

カストリ社事件

坂口 安吾

「別冊オール読物」1948(昭和23)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

よって彼は、あくまで、純情であり、義理堅く、したがって、トンマであった。

浅草時代、ちょッとばかり世話になった知り合いのアンチャンが、今では親分になっている。テキヤなどとは昔の言葉で、今では土建業、ナント力組、即ち、紳士である。

その車組の善八親分に街でバッタリ会って、茶のみ話にカストリ社の窮状をもらしたところ、イクラありゃ、いゝんだ、と、事もなげに言ったものだ。あげくに、ポンと二十万、小切手をくれた。元来小心の花田が、犯人の如く、心細く窓口に待つところへ、ホンモノの二十万円が事もなげにつみ重ねられ、イヤ、驚いたネ、そうですとも、二十万円と申せば、帝銀事件の先生よりも三万円も余計じゃないか。何が何だか、分りゃしない。夢心持で、カストリ社へかつぎこんだ。

「なにィ」

と、一言、うなったきり、社長の先生、言葉もなく、身動きもない。

心に悩むところ大なる人物は、打見たところ、閑静で、全然、怠け者のようである。だから、社長の先生も、全然、怠け者のようであった。

冬は机の下へ電気コンロをおき、そこへ足をのばし、両手をクビの後へくんで、一日天井をボンヤリ見ている。