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カストリしゃじけん

カストリ社事件

坂口 安吾

「別冊オール読物」1948(昭和23)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

春暖の候となるや、靴をぬぎ、両足を机の上へつきのばして、両手をクビの後にくんで、ボンヤリ天井をにらんでいる。夏になると、靴下もぬぎ、机の上へカナダライに水をいれて、その中へ足を突ッこんで、両手を後クビにくんで、天井をにらんでいる。

頃しも、春であった。机へ乗っけた社長の先生の両足にならんで、二十万円の現金がつみ重ねられている。花田の顔は、泣きだしそうに見えた。たゞ今、帝銀で、かせいで来ました、というようであった。それ以外に、どう考えれば、こんな奇蹟がありうるのか。

社長の先生も、あきらめきった顔をして、泥亀の要領で、足を机の下へひっこめた。

「もらったんです。つまり、くれたんですな」

と、花田は、切ない顔つきで、逐一事情を説明した。

「なぜ、くれたんだ」

「それが、その、わからねえや。つまり、くれたんですな。オトコ、か、ねえ」

「フーム。オトコ。そうか。オトコ、か。わかった」

と、叫んだが、わかったような顔ではない。

ともかく、金曜日、車親分が社へくるというから、それを待つことにして、二十万円は、見る見る借金を払い消え失せてしまったのである。

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