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バルザックにたいするひょうか

バルザックに対する評価

宮本 百合子

「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页

青空文庫

彼が数ヵ月の間、部屋も出ず、レモン水と堅パンとで暮しながら書き上げた「クロンウェル」の効果は意外であった。

朗読は「少しの反響もなく、聴衆の陰鬱な沈黙と呆然自失のうちに」終り、更にその原稿を見せた理工科学校の一老教授は、親切にバルザックに忠告した。「どんな仕事でもやりなさい。ただし文学だけは除いて」と。

この「クロンウェル」の失敗は然し、バルザックの生涯にとって決して消極的な役割だけをもつものとはならなかった。両親は却ってこの熱烈で大柄な若者の野心の余りひどい挫折を劬り、小説で成功するためには、金儲けをすると同じに、やはり時間のいることをおのずから会得したものか、健康恢復をさせるため、バルザックを当時隠退して住んでいたヴィルパリジェスの家へ引きとった。

食う心配はなくなったけれども、公証人の収入と小説家の収入とを敏感にくらべている両親を納得させ独立するために、金はやっぱり自身のペンで稼がなければならぬ。ヴィルパリジェスに住んだ四五年の間に、バルザックは、或るものは独りで、或るものは友達と協力して、妹ロオルの言うところによれば、実に数十冊の小説をいくつかの仮名で書き、それを売ったのである。