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バルザックにたいするひょうか

バルザックに対する評価

宮本 百合子

「文学古典の再認識」芸術遺産研究会編、現代文化社、1935(昭和10)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,904 字 · 62 页

青空文庫

不如意な窮屈な生活と闘い、自分ながら本名を出しかねるような三文小説を売りながらも、次第にバルザックは文学における自身の力をおぼろげに自覚しはじめたらしく思われる。彼は「自分の思想の一番いいところをこんな仕事に犠牲にしなければならないのは堪らない」と歎息を洩している。この期間に、有名なマダム・ド・ベルニィとバルザックとの十年間に亙る意味ふかい相識がはじまったのである。

ロオル・ベルニィ夫人の父というのは、ルイ十六世の宮廷に出入してマリイ・アントワネットの音楽教師を勤めたヒンネルというドイツ人であり、母は、ルイズと云い、マリイ・アントワネットの侍女の一人であった。父の死後母は熱心な王党員である司令副官と結婚し、この一家とマリイ・アントワネットのきずなは、アントワネットが断頭台にのぼる前、ロオルの母に自分の髪飾りと耳輪とを形見に与えた程深いものであった。

そのような環境の中に幼時を経た頭の鋭い感傷的な性格のロオルは、僅か十五の年、宮廷裁判所の判事である貴族出のベルニィと結婚させられた。大革命期には夫妻とも九ヵ月幽閉され、ロベスピエールの失脚によって解放された経験もある。