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ロマンスとえんだん

ロマンスと縁談

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,722 字 · 28 页

青空文庫

と言ってくれた。僕は映画会社が三輪さんを引っこぬきに来ないのが不思議だと言って、お世辞を使った。自信のある女性にはこの手で乗じる。効果百パーセントだ。会社の帰りを誘って、銀ブラをしたこともある。昼食後屋上で屡話した。会社はビルディングの六階全部を借りている。

雲の峯が立ちはだかっている夏の真盛りだった。屋上の展望は広い。

「三輪さん、自然は大きいけれど、人間は小さいですね」

と僕は詩人めいた感想を洩らした。

「本当ね。何て雲でしょう! 凄いわ」

「雲の峯日本の夢も崩れけり」

「俳句?」

「えゝ」

「俳句をなさるの?」

「えゝ少しやります」

「あなたは文学青年ね、こう見えても」

「何う見えるんですか?」

「会社員ってことよ」

「僕は文学よりも哲学です。哲学者が生活の都合で会社員を勤めているんでしょう」

同僚の有象無象とは聊か選を異にするというところを印象づける積りだった。続いて人生問題から生活問題へ移った。話の切っかけが丁度好かったから、

「時に三輪さんも何うせ良妻賢母でしょうね?」

と訊いて見た。

「えゝ」

と三輪さんは無条件で答えた。

「簡単ですね。何か理想があるんだと思っていたら」