轻松读懂日语经典作品
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いちにんならじ
一人ならじ
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,312 字 · 21 页
「死ぬよりいい」
と云った。
まだごく幼い頃、五歳ぐらいのときだったが、彼は竹を削っていて指を切ったことがある、かなり深い傷でひどく血がふき出た。母親がびっくりして駈けつけ、すぐに手当をしてやりながら、「さぞ痛かろう」となんども訊ねた。彼は歯をくいしばって、「少しひりひりします」と答えたがついに痛いとは云わなかった、あとでそのことを良人に語ったら、その少しまえに、「武士はがまん強くなければならぬ」と訓えたということがわかった。それが幼い心にかたく刻みつけられたのである。そういう年頃からの、つまりもう性格になってしまったことなので、今さら音をあげさせてみようというのが無理だったのだ。
「ちょっと骨っぽいやつだ」と高折又七郎が云い、暫くはそのがまん強さがよく噂にのぼった。けれども戦塵のおさまる暇のない世に、そんなことがいつまで人の注意を惹くわけはない、ましてそれからたびたび合戦に出ても、これといって目に立つほどの手柄がなかったので、しだいにその印象がぼやけてゆき、やがて多くの軍兵のなかへ存在がまぎれこんでしまった。
彼が十八歳のとき父の権六郎が死に、明くる年そのあとを追うようにして母親も亡くなった。