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さんねんめ
三年目
山本 周五郎
「雄弁」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,214 字 · 22 页
「…………」
「広田屋の名を盛立てるにも、二人で所帯を持つにも先立つ物は金だ、白粉の匂いも嗅がず喰べてえ物も我慢して、三年のあいだ貯めた金が三十両、腕一本で稼ぐには血の滲む苦労をしてきたんだ、……それを、帰ってみりゃあこのざまだ、てめえたちゃ二人で、さぞこのおれを笑い草にしていただろう」
「…………」
「おいらも自分で自分が可笑しいや、可笑しくって堪らねえや」
友吉は痙攣ったように笑いだした。
「てめえたちが夫婦になったと聞いても、ここへ来るまでは信用ができなかった。それをうちはまだ帰らねえ……ぬけぬけと云ゃあがったな、これ見よがしの丸髷を眼前へ晒しゃがったな、それでやっと騙されたことに気がついたほど、おいらあ間抜けの金看板だ」
「…………」
「古い台詞だが、重ねて置いて四つにするんだ、死んだ親方もこいつは勘弁してくださるだろう、二人一緒にするのを慈悲だと思え」
友吉はそれだけ云うと、お菊を抱上げて次の間へ行き、明いている戸棚の中へ押込んで襖を閉めた。……お菊はされるままになっていた。
路地には急に人声が高くなった。
「ああいけねえ、下駄が浮きだしたぜ」
「甚兵衛さん、おめえ逃げねえのか、こいつは並大抵の水じゃ無さそうだぜ」