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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

頬髯が浪をうって、泰軒はいつまでも泣くような哄笑をつづけていた。

そして最後に、

「いや。それもおもしろかろう。さすがは栄三郎殿がうちこむほどの女だけあって、お艶どの、あんたは見あげた心がけじゃ。この上は栄三郎殿も力のすべてを刀へ向けて必ずや近く乾雲を奪還することであろうが、さ、そうなった日にはまたあらためて相談、決してこの泰軒が悪いようにはせぬ。きっとそちこちあんたの身の立つようにまとめて見せるから、いわばここしばらくの辛抱……栄三郎殿にもあんたにも気の毒だが、では、一刻も早くここを出るとしようか」

ということになって、お艶は泣きじゃくりながら身のまわりの小物を包みにして、しきりに鼻をかんでいる泰軒とともに、栄三郎の帰らぬうちにと、そろって瓦町の侘び住居を立ちいでたのだった。

うしろ髪を引かれる思いのお艶と、磊落に笑いながら胸中にもらい泣きを禁じ得ない蒲生泰軒先生と――。

爾来数日。

野良犬のごとく江戸のちまたに夜な夜なの夢をむすんだお艶を、諏訪栄三郎になりかわって、豪侠泰軒がちから強く守っていた。

この女子は栄三郎殿からの預り物……こう思うと泰軒、たとえ一時にしろ、お艶の身の落ち着き方を見とどけなくてはすまされぬ。