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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

が、家のない身に女の預り物は、さすがの楽天風来坊にも背負いきれぬお荷物になってきた。

そこで、考えあぐんだのち、はたと思いついたのが蒲生泰軒のこころの友、今をときめく江戸町奉行大岡越前守忠相――。

「今日はちと肩の凝るところへ案内をして進ぜよう、だまってついて来なさい」

こう言って泰軒は、貧乏徳利とお艶をつれて首尾の松の小舟をあとに、白昼うら門からこのお屋敷へはいりこんだのだ。

どこだろうここは……と泰軒の影にかくれて、おずおず奥庭のお茶室まで来たお艶、でっぷりふとった品のいいお殿様と、泰軒先生との友達づきあいの会話のあいだに、このお方こそほかならぬ南のお奉行様と知るや、ここで待つようにと泰軒に言われた縁下の地面に土下座して、いっそう身も世もなくちぢまる拍子に、白い額部が土を押した。

室内にはまだ沈黙がつづいている――。

「黒!」

越前守忠相は、あいている障子の間から縁ごしに声を投げた。

躍るように陽の照る庭さきに、一匹の大きな黒犬が、心得顔に前肢をそろえて見ている。

宇和島伊達遠江守殿から贈られた隣藩土佐産の名犬、忠相の愛する黒というりこうものである。