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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「ナニ、気にするどころか、俺たちのあいだはそんな他人行儀のものじゃあねえ、あれア心からありがてえと思っているのだ。なあ月輪氏、そうではないか」

ときかれて、与吉その他とともに泰軒の噂に夢中になっていた月輪軍之助、不意の質問にあわてて、

「ささささようでござるとも。い、いかにも丹下殿の仰せらるるとおり――」

といつになくどもって答えると、その口つきに左膳は、主君大膳亮を思い出したらしく、

「……さぞお待ち兼ねのことであろう、いや、なんかと手間どり申しわけござらぬ」

珍しく四角ばった言葉になりながら、

「アア乾雲が夜泣きをする! 竜を呼んで泣くのだ。ソレソレこの声が御一同には聞こえぬかな」

と左手に陣太刀を撫して、血ののぼった一眼を満座のうえに走らせたとき。

大御番頭だった父宇右衛門のころは、登城をしたから馬も馬丁も抱えていたけれど、その時分すら下女は二人しか使わなかったのに、小普請におちた当代の源十郎がやはりふたりおいているとあっては、始終まわってくる小普請支配取締りのおもて面倒だとあって、母の格とはいえ、こうなるとどうしてもおさよが女中なみに立ち働かざるを得ない。