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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

定斎屋の金具の音がのんびりと橋を渡って消えてゆくと、近くの武家の塀内で、去年の秋から落ち葉を焼くけむりが、白くいぶったままこの部屋の端にまでたゆって来ている。

春長うして閑居。

明窓浄几とはいかなくても、せめて庭に対して経づくえの一脚をすえ、それに面して書見するなり、ものにはならないまでも、詩箋のひとつもひねくろうというのなら、さすがは徳川幕下直参の士、源十郎もすこしは奥ゆかしかろうというものだが、どうしてどうしてこの鈴川のお殿様ときた日には、書物といえば博奕の貸借をつける帳面以外には見たこともなく、筆なんか其帳へ記入する時のほか手にしたこともないという仁だから、いくら錆びた庭面に春の日が斑に滑ろうが、あるかなしかの風に浮かれて桜の花びらが破れ畳に吹きこんでこようが、いっこうに風流雅味のこころを動かされるふうもなく、きょうも先刻から、とうのむかしに抱きこんである老婆さよを呼び入れて、こうしてしきりに五十金の縁切り状だのと春らしくもないことを並べたてているのは、さては源十郎、いよいよお艶を手に入れる策略を現にめぐらしはじめたものとみえる。

さてこそ、ふたりの中間に、山吹色――というといささか高尚だが、佐渡の土を人間の欲念で固めた黄金が五十枚、銅臭芬々として耳をそろえているわけ。