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かずえはいそがしい

主計は忙しい

山本 周五郎

「奇譚」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页

青空文庫

主計はいちど坐ってまた立った、「――どこにいたらいいんだ、なにかするんだろうか、座敷へなにか運ぶんだろうか」

すっかりあがりぎみで、廊下へ出たとたんばったり母に会った。母、さよう、主計の生みの母である。

「ああお母さん、ど、どうなすったんです」

母は盛装していた。そして妹の手を曳いている。妹のたまきは白無垢を着て、白のかいどりを重ね、裾を長くひいていた。あれっと思って振返ると、原田という叔父夫妻と父の茂右衛門がみえた。

――ははあ、……ははあ。

主計は、ごくっと喉を鳴らした。

「いやどうも」彼は後ろへ退った、「――きれいですね、たまきは、私は来ていたんですよ、このとおりです、向うにいますから」

身を飜すという風に、彼は六郎兵衛の居間へとんでいった。そして友達を廊下の隅へ引張ってゆくと、いきなりげらげらと笑いだした。

「どうしたんだ、ばかだね、なにが可笑しいんだ、おい、なにをそう笑うんだ」

「もうちょっと笑わしてくれ」

そしてようやく笑いやむと、相手の耳へ口を寄せて事情を囁いた。

「なんだって」六郎兵衛は例のめだまを大きく瞠った、「――おい主計、きさま、おい、それは本当のことか」