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かずえはいそがしい

主計は忙しい

山本 周五郎

「奇譚」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页

青空文庫

「お言葉ではございますが、これは、実はもうとうから」

「断わるには理由があるのだ」

市郎左衛門は立っていったが、すぐに手紙を二通手にして戻り、それを主計の前へ押しやりながら云った。

「これを見ろ、そのうえで聞くことがあれば聞く、まさか覚えがないとは云えぬだろう」

主計はそれを手に取った。表は二つとも彼の名であり、裏は「その字」となっている、披いてみると艶書だった、それもたいそう露骨でみだらがましく、読むうちにこっちの顔が赤くなるような文句である、明らかに誰かの拵えたしごとだ、「その字」が園次であるにしても、そんな文をよこすわけがないし貰うような覚えもない。

「これはどうしてお手にはいったのですか」

「そこもとの袂から落ちたという」

「それでこれをお信じなさるんですか、このような下賤なものを、しかも人にみつけられれば身を滅ぼすようなものを、私が袂に入れて落すような人間だとお思いなさるのですか」

「それではなぜそんなものが袂から落ちたのか、聞けば先頃から神明あたりのいかがわしき家に出入りしているそうだが、それも根のないことだと云うのか」

「慥かに神明のさる家へはまいります」