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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

事情を申し上げてもいいんだけど、とにかく、僕から頼むのです。一晩だけ貸して下さい。あしたの朝早く、必ずお返し致します。」

「勝手にお使い下さい。僕は、存じません。」と泣き声で言って、くるりと、私の方に背を向け、机の上の洋書を、むやみにぱっぱっとめくった。

「よそうよ。僕は、どうなったって、いいんだ。」佐伯は上半身を起して、私に言った。

「それあ、いかん。」私は、断然首を横に振った。「君は、今になって、そんな事を言い出すのは、卑怯だ。それじゃ、まるで、僕が君にからかわれて、ここまでやって来たようなものだ。」

「なんですか。」熊本君は、私たちが言い争いをはじめたら、奇妙に喜びを感じた様子で、くるりと、またこちらに向き直り、「佐伯君が、また何か、はじめたのですか? 深い事情があるようですね。」と、ひどく尊大な口調で言い、さも、分別ありげに腕組みをした。

「もういいんだ。僕は、熊本なんかに、ものを頼みたくないんだ。」佐伯は、急に立ちあがった。「僕は、帰るぞ。」

「待て、待て。」私も立ち上って、佐伯を引きとめた。「君には、帰るところは無い筈だ。熊本君だって、制服を貸さないとは言ってないんだ。