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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

熊本君は、私たち二人に更に大いに喧嘩させて、それを傍で分別顔して聞きながら双方に等分に相槌を打つという、あの、たまらぬ楽しみを味わうつもりでいるらしかった。佐伯は逸早く、熊本君の、そのずるい期待を見破った様子で、

「君は、もう帰ったらどうだい。ナイフも返してやったし、制服と帽子も今すぐ、この人が返してあげるそうだ。ステッキを忘れないようにしろよ。」にこりともせず、落ちついた口調で言ったのである。

熊本君は、もう既に泣きべそを掻いて、

「そんなに軽蔑しなくてもいいじゃないですか。僕だって、君の力になってやろうと思っているのですよ。」

私は、熊本君のその懸命の様子を、可愛く思った。

「そうだ、そうだ。熊本君は、このとおり僕に制服やら帽子やらを貸してくれたし、謂わば大事な人だ。ここにいてもらったほうがいい。コオヒイ、三つだ。」私は、食堂の奥のほうに向って大声でコオヒイを命じた。薄暗い、その食堂の奥に先刻から、十三、四歳の男の子が、ぼんやり立って私たちのほうを眺めていたのである。

「母ちゃん、お風呂へ行った。」その、まだ小学校に通っているらしい男の子は、のろい口調で答えるのである。