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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

「象牙の塔か。」

佐伯の、その、ふっと呟いた二言には、へんにせつない響きがあった。私の胸に、きりきり痛く喰いいった。私は、更に一ぱいビイルを飲みほした。

「五一郎君、」と私は親愛の情をこめて呼んだ。「僕には、なんでも皆わかっているのだよ。さっき君が僕に風呂敷包みを投げつけて、逃げ出そうとした時、はっと皆わかってしまったのだ。君は、僕をだましたね。いや、責めるのじゃない。人を責めるなんて、むずかしい事だ。僕は、わかったけれども、何も言えなかったのだ。言うのが、つらくて、いっそ知らん振りしていようかとさえ思ったのだが、いまビイルの酔いを借りて、とうとう言い出したわけだ。いや、考えてみると、君が僕に言わせるようにしむけてくれたのかも知れないね。ビイルを見つけてくれたのは、君なんだから。」

「なるほど、」と熊本君は小声で呟き、「佐伯君には、そんな遠大な思いやりがあって、ビイルのことを言い出したというわけですね。なるほど。」としきりに首肯いて腕組みした。

「そんな、ばかな思いやりって、あるものか。」佐伯は少し笑って、「僕は、ただ、その、ほら、――」と言い澱んで、両手でやたらに卓の上を撫で廻した。