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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

川幅は、こんなに狭いが、ひどく深く、流れの力も強いという話である。この土地の人は、この川を、人喰い川と呼んで、恐怖している。私は、少し疲れた。花びらを追う事を、あきらめて、ゆっくり歩いた。たちまち一群の花びらは、流れて遠のき、きらと陽に白く小さく光って見えなくなった。私は、意味の無い溜息を、ほっと吐いて、手のひらで額の汗を拭き払った時、すぐ足もとで、わあ寒い! という叫び声が。

私は、もちろん驚いた。尻餅をつかんばかりに、驚いた。人喰い川を、真白い全裸の少年が泳いでいる。いや、押し流されている。頭を水面に、すっと高く出し、にこにこ笑いながら、わあ寒い、寒いなあ、と言い私のほうを振り向き振り向き、みるみる下流に押し流されて行った。私は、わけもわからず走り出した。大事件だ。あれは、溺死するにきまっている。私は、泳げないが、でも、見ているわけにはいかぬ。私は、いつ死んだって、惜しくないからだである。救えないまでも飛び込み、共に死ななければならぬ。死所を得たというものかも知れぬ、などと、非論理的な愚鈍の事を、きれぎれに考えながら、なりも振りもかまわずに走った。