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ふたつのじょぶん

二つの

中谷 宇吉郎

中谷宇吉郎『二つの』。同一底本的分册已合并为一书。收入:二つの序文、『団栗』のことなど、詩人への註文、樹氷の科学、救われた稀本、大雪山二題、小さい機縁、天地創造の話、農業物理学夜話、防寒戸、雪は資源である、アメリカの沙漠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 115,903 字 · 236 页

青空文庫

こういう境遇にあっては、おたがいに手紙が唯一の慰めであったのは当然である。先生の日記には、ほとんど連日のように、「夏へ手紙書く」「夏へ長き長き手紙送る」「夏の日記添刪してホトトギスへ送る」というような文字が見られる。奥さんからは、「自分の今の境遇は波打際の落葉の様なものだと云つて」来たり、同じ病で亡くなった友人の正木さんの余りにも哀れな話を知らせて来たりする。「死ぬる前日出産ありしも元より月足らずにて育たず。亡骸は一つの棺に収めて葬りし余りの哀れさ目もあてられずと。墓は虫なく台場の少し手前と云へば、月の夜さりは磯馴松影新敷標木に落ちて。人の涙は砂を潤さんとそぞろに悲しかり。過ぎし日夏子と袖ふりはえて波止場の夕日に釣垂れし人。父も見ず世を蓑虫の母も見ぬ子の亡骸を擁して松濤寒き影に眠るぞうたて世や。」

正月を送り、二月が過ぎ、三月に入って、先生の健康は順調に快復して行った。しかし奥さんの方は、依然として同じような状態であったらしい。ただ一人種崎の海岸で、「波打際の落葉の様な」境遇にあった奥さんの健康が、はかばかしく快復しなかったのも当然であろう。

三月に入って、日記に初めて宗教という文字が見え始める。