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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页
僕が悪ければいつでもあやまるよ。」彼の皮肉な調子はいつのまにかしみじみとした調子に変っていた。「然し僕にあやまらせないようにしてくれるのがお前の役目だ。僕は非常に疲れている。疲れている僕をいたわってくれるのがお前の役目だ。僕は非常に淋しい。淋しいから苛ら苛らするのだ。お前の心がこの頃は少しも分らない。お前の身振り、お前の言葉の意味、お前の眼付、お前の顔色、それらのものに包まれてるお前の考え、それは僕に分りすぎる位はっきり分っている。然し僕が知りたいのはそんなものではない。もっと大きな深いお前の魂だ。お前の本体と云ってもいい。それを僕はとり失ったような気がしている。僕に何もかも云ってくれないか。僕はお前に何も咎めはしない。僕の病気が悪いのだ。僕は死ぬかも知れないんだ。」
「いえいえ、そんなことが……。」と信子は叫んだ。
「お前はいつもそう云う。然し、僕が全快しさえしたら……という希望が、お前の心には無くなってるようだ。いや僕自身の心にも無くなってるような気がする。どちらが先にそうなったか分らないが、そういう行きづまった気分を、僕達は互に通じ合っている。