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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
一つはなをまがったときである。前の小ツルがきゅうに立ちどまって海のほうをながめた。先にたつものにならう雁のように、みんなも同じほうを見た。小ツルが歩きだすとまた歩く。やがて、いつのまにかみんなの視線は一つになって海の上にそそがれ、歩くのを忘れてしまった。
はじめから小ツルは知っていたのであろうか。それともたった今、みんなといっしょに気づいたのであろうか。静かな春の海を、一そうの漁船が早櫓でこぎわたっていた。手ぬぐいで、はちまきをしたはだかの男が二人、力いっぱいのかっこうで櫓を押している。二丁櫓のあとが、幅びろい櫓足をひいて、走るように対岸の町をさして遠ざかってゆくのだ。もうけんかどころでなかった。
なんじゃろ?
だれのうちのできごとじゃろう?
みんな目を見あわした。消え去りつつ新らしくひかれてゆく櫓足から、岬の村に大事件が突発したことだけがわかった。急病人にちがいない。船の胴の間にひろげたふとんが見られ、そこにだれかがねかされているとさっした。しかし、またたくまに船は遠ざかり、乗りこんでいる人の判別もつかなかった。まるでそれは、瞬間の夢のように、とぶ鳥のかげのようにすぎた。