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びぜんめいきゅうでん
備前名弓伝
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页
ではもう一人使をやれと、命じているところへようやくさきの使番が戻ってきた。すぐ登城するというので光政はほっと息をついた。
「ではどうやら馬場の埃もしずまったようだから、四番を射させて御覧に入れましょうかな」と、いかにもそれまで休憩していたような口吻である。馬場の埃といったって、さっきの埃は、もう十里も先へ飛んでいる頃だ。誰か呼びにやっているということは光晟も察していたが、礼儀だからそ知らぬ顔で、
「さよう、では御自慢の弓勢を拝見いたそう」と坐り直した。
やがて待ち兼ねていた太鼓が鼕々と鳴り響く、馬上手綱を絞って三之丞が出てきた。馬場を半分廻って桟敷の正面へ拝礼して裃の肩衣をはねると、しずかに馬首をかえしたが、そのとき安芸守がふと光政に振返った。
「あの者は命矢を持っておらぬようじゃな」「……いかにも」そう云われて光政も気がついた、三之丞は弓に則えて一筋の矢を持っているだけである、矢壺は空で命矢という二の矢がない。忘れたのか、と思うと気が気ではなかった。三之丞は気づいているのかいないのか、馬にだくを踏ませて結び矢来へ近づいたが、いきなり、
「え――い!」
と裂帛の気合をかけた。