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びぜんめいきゅうでん
備前名弓伝
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页
閉門中に許しもなく門を開いて出るなどは法を破る大罪で、――これは乱心をなすったに違いない。――今のうちに中へお入れ申せ。と家来たちは大騒ぎになった。そこへ早くも光政参覲の行列が来かかると、中から光政が、
「長門、長門」と声をかけた。お声が掛ったから、さあみつかったとみんな顔を見合せながら行列は停る。長門は平伏して待っていたがするすると駕の間近へ進んで両手をおろし、しずかに主君を仰ぎ見ながら、
「今日は天気も格別よろしく、恐れながら長門、恐悦を申上げまする。御留守の儀は、例の如く家中いずれも申合せ万々大切に相勤めまする故、すこしもお心遣いなく。御旅中万福をお祈り申上げまする」よどみもなく言上した。光政もうなずいて、
「留守の事、頼むぞ」と云い、しずかに笑って乗物をあげさせた。両方とも閉門の事には一言も触れないので、お側の者たちは狐につままれたような顔をしていた。このときの事を光政が後に説明して「国の老職たる者が、いかに閉門を命ぜられているからとて、領主が他国へ旅立つのに閉門のまま送りに出ぬようではなんの役にも立たぬ。……あの折も、長門がもし出ていなかったらそのままには差しおかぬところだった」