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へいほうしゃ

兵法者

山本 周五郎

「新武道」1944(昭和19)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,184 字 · 16 页

青空文庫

云々とあるとおり、きわめて簡素なくらしであり、僅かな侍臣たちも多く付近の谷蔭などに住居をもっていて交代に詰めるという風だった。或る年の霜月、時雨の降りしきる宵であった。三木幾右衛門(さきの幾之丞)はめずらしくただひとり炉端でおはなし相手をつとめていたが、ふと言葉がとぎれたとき、思いだしたように、――二十余年まえ兵法者なにがしという者が暫くお側に仕えていたのを御記憶あそばすかとたずねた。光圀はよく覚えていたらしい、炉の火をみつめたまましずかに頷いた、「かの者について今日に至るまで合点のまいらぬ事がございます、折あらば御意のほどを伺いとう存じておりましたが……」「なんだ」光圀はやはり火をみつめたまま云った、「申してみい」幾右衛門はしずかに、「かのなにがしにおいとまの御意がありました節、わたくし物蔭より始終の事を拝見しておりました、そのまえに御前がはじめてかれを池へお墜しあそばした折にも、やはりひそかに拝見していたのでございます、けれども二度めのときの御不興がいかなる仔細によるものかどうしても相わかりませんでした」「…………」「それからまた佐佐と中野の三名にて、かれを呼び返しにまいりまして、かれが即座に割腹した始末を言上つかまつりましたとき、そうであろう、との仰せでございました、わたくし共にはかれの割腹したしょ