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へいほうしゃ

兵法者

山本 周五郎

「新武道」1944(昭和19)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,184 字 · 16 页

青空文庫

「お召し返しとな……」かれはそう云って三人の顔をつぎ次ぎに見まわした。そしてさっと鬢のあたりを蒼白くした、「よび返せという仰せか……」もういちど云うと、――やむを得ぬ、そう呟きながら何を思ったかいきなりそこへ坐り、衿をくつろげた。「どうなさる」助三郎がこえをかけて押し止めようとしたが、それより早く、兵法者なにがしは差添を抜いて腹へ突きたてていた。すばやく、断乎とした割腹である、三人は寧ろあっけにとられて立ちつくした。

三人の復命を聞いたとき光圀はしばらく黙っていたが、「……そうだろう」と暫くして云った、それだけだった。――そうだろうとはいかにもその結果をみとおしていた感じなので、三人にはますますわからなかった。しかし訊き返すわけにもゆかず、そのことはわからぬままに忘れられていった。

それから二十年あまりの歳月が過ぎて、元禄三年に光圀は致仕し、太田郷の西山というところに隠棲した。桃源遺事という書に「西山の御山荘はとりわけ佗びたる御事なり、御簷は萱をもて葺けるがうへにしはきりといふ草おひ茂れり、御門牆には蔦かつら這ひかかり、表のかたに竹垣一重のみありて、その外は山につづき御かこひといふもの一重もなし」