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ふゆがれ

冬枯れ

徳永 直

「中央公論」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页

青空文庫

そうしてるうちに次第に心も落ちつき、生米を噛むような味が出てきて、調子もつき、やがてほのぼのとした明るさになるのだったが、きょうは却々それでも駄目であった。

昨夜もひどい強迫観念に襲われた。それは誠にツマらない恥ずかしい夢で、彼はそれを他人に話したことはなかったが、ひどいときは夢の中の出来事がマザマザと一日も二日も頭脳にコビリついていた。いまもそれが頭脳の大半を占領していて却々撃退出来ない。昨夜の夢には昼間きた刑事の顔も加わっていて、ひどく惨めな敗北的な己れの姿だった――

そんなとき彼は、全身汗をかいて蒲団の上に起きあがってしまう。そして薄暗い闇の底をキョトキョトと見廻す。芋の子のように転がり眠っている子供達、疲れて正体もなく寝くたびれている女房と赤ン坊……。電気を点けて深呼吸してみたり、煙草を喫ってみたりするが、怖ろしくささえのないような不安で、到々女房を揺すぶり起すのだった。

「な、なにさ……」

しかし相手は疲で、語尾はすぐ眠りの中に嗄れてしまう。――

「また、夢、でも、みたンでしょう――」

そして彼はひとり闇の中にとりのこされ、暁方まで悶々するのだが、不思議なほど脆くなった心には、自分が過去に書いてきた作品さえが、まるで別人の仕業のように思われ出してくるのだ。