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しょや

初夜

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊号」朝日新聞社、1954(昭和29)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,384 字 · 35 页

青空文庫

それは、今年(明和五年)の二月、朝廷で立太子の大礼があり、幕府からも祝儀のため使者を差遣した。そのなかに藩主の石見守康富も加えられたので、その費用をまかなう必要から、在国の右京亮康貞が急に発行を命じたものであった。加印がなければ発行高もわからないし濫発のおそれもある。しぜんその価値が下るのは当然で、老臣たちはずいぶん反対した。筆頭家老の岡島頼母は「三老職、五奉行の合議によらずして政治をおこなうべからず、――」という藩祖の遺訓をあげて諫めた。藩祖の遺訓のなかでも、この一条は代々の藩主の守るべき第一としてあった。それにもかかわらず右京亮はきかなかった。

――このたびの御役は予期しないもので、調達は急を要するから、他の方法ではまにあわない、善後の処置はあとのことだ。

右京亮はそう云って押し切った。そのとき押し切らせてはいけなかった、そのときこそ右京亮を抑えるべきであった。そうでなくとも、すでに無謀な政治の弊害が、いろいろな方面に現われだしていたからである。

――おれには経済のことなどわからないが、そういうわけだとすると捨ててはおけないな。

城下へ帰る途中、「銀札」