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るそんのつぼ
呂宋の壺
久生 十蘭
「オール讀物」1957(昭和32)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,375 字 · 36 页
噂らしいものも聞かないのは、いないからなのだろうが、万一ということもあるものだと思い、ディラオへ行って町年寄に聞いてみた。
町年寄の浅井九郎右衛門は苦りきった顔で「あいつは慶長八年に、ミンダナオ島のカガヤンで海賊を働いたうえ、イスパニヤの兵隊の後押しをして、二万人からの明人を殺したことのあるやつだ。そういう始末だから、呂宋へなどやってくるわけはない。あいつのおかげで、われわれは迷惑をこうむっている。やってきたら、ただではおかぬ」
と口をきわめて罵った。
助左衛門が海賊を働いたとは意外だった。もし、それが事実なら、人別のはっきりしている日本人町に住みつくわけはない。呂宋にいるとしても、名を変えて、人知れぬ里で暮しているのにちがいない。理窟はそうだが、それでは探しだすあてがない。
九月の末ごろ、南呂宋のサンミゲルという町に、日本人らしい男が住んでいるという噂を聞いた。
サンミゲルは、呂宋島に東南に伸びだした半島の一角にあるささやかな漁村で、陸つづきになっているが、途中にモロという蛮族が住んでいるので、陸路の旅行はできない。マウバンというところまで行って、そこから土人の舟を雇う。