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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

それはともかく、この地方で製紙をするのが、上川崎と下川崎の一部に截然と限られていて、他の村へ一歩を踏み出すと、たとえばそれが上川崎村と同じ条件にある耕地の少い山村でも、そこには一枚の乾し板すら見出せないのは何故であろう。誰でも一応は疑問にしたが、友太に言わせれば、村の耕地的条件と、それからくる経済状況だけが、決して製紙を副業とする原因ではない明らかな証左であった。そう多くを要しない資本で、技術の習得にしてもさして困難ではない製紙業も、冬のさ中に水と闘う、苛酷な寒気への苦行に近い忍従がない限り、謂わゆる他村の人々には手の出ない仕事になるのではないだろうか。上川崎の人々には、冬の征服者としての血が長い伝統を承け継いで流れている、誇りを以て友太はそう考えているのであった。

「……まあ、紙漉きの方なんどは手伝うに及ばねえで、縫い物でもして貰うことにするべや。」

「わたし皆さんに気に入られるかどうか心配ですの。」

窓外に眼をやると、蒼茫とした田野の起伏に続いて、間近く聳えた安達太郎山が残照を浴びてうす赤く映えていた。

「これで三度目ですわ。」

暗くなりかけた安達駅に降り立った時、としゑは低く呟いた。